大綿津見神(オオワタツミノカミ)は、日本神話における海の総本尊です。「ワタ(海)」「ツ(の)」「ミ(神霊)」の名が示す通り、海そのものを神格化した存在であり、地上を巡ったすべての水を受け止め、浄化し、新たな生命を育む「生命のゆりかご」を司ります。

1. 神名に秘められた「海の意思」
🔴「綿津見(ワタツミ)」: 「ワタ」は古い言葉で海を指し、大綿津見神(オオワタツミノカミ)は数ある海の神々の中でも、深海から波打ち際まで、海域すべてを支配する偉大な力を持ちます。
🔴龍宮の主(あるじ): 神話では海原の奥底にある「魚鱗のごとく造り飾った」と称される壮麗な龍宮城に住まい、海の生き物すべてを使わしめ、潮の満ち引きを自在に操る宝珠(潮満珠・潮干珠)を所有する、圧倒的な権能を持つ王として描かれています。

2. 水の循環における役割:究極の浄化と再生
神々と対比させることでその重要性が際立ちます。
🔴高龗神(タカミクラノカミ)・闇龗神(クラミクラノカミ): 天と地を巡る「流れ」を司る。
🔴闇御津羽神(クラミツハノカミ): 湧き出す「誕生」を司る。
🔴大綿津見神(オオワタツミノカミ): それらすべてが最終的に還り、再び蒸発して天へと昇る前の「究極の貯蔵と浄化」を司る。
あらゆる汚れを飲み込み、清らかな塩の力で浄化し、また雨の素となる雲を育む。まさに「水の循環の完成地」を象徴する神です。

3. 神話にみる「導き」と「厳格さ」
山幸彦(ヤマサチヒコ)が失くした釣り針を探して海宮を訪れた際、大綿津見神(オオワタツミノカミ)は彼を快く迎え入れ、娘の豊玉毘売命(トヨタマヒメ)との縁を結びました。
🔴賢者としての側面: 困っている山幸彦に対し、海の生き物たちを総動員して針を見つけ出し、さらに地上での勝利をも約束する知恵を授けました。
🔴厳格な秩序: 海には独自の法があり、それを侵す者には容赦ない力を見せます。しかし、筋を通す者には惜しみない富と加護を与える、慈父のような一面を併せ持っています。

4. 大綿津見神(オオワタツミノカミ)を祀る代表的な聖地
「海神の総本宮」と称され、古来より海上安全や水難除けの祈願所として崇敬されてきました。古代日本を支えた安曇氏(あずみし)が奉斎した、非常に格式高い社です。
住吉大社の摂社でありながら、本殿よりも古い起源を持つとされる聖域。大綿津見神(オオワタツミノカミ)とその娘である豊玉毘売命(トヨタマヒメ)を祀り、海の霊力が凝縮された場所として知られています。

5. 第一線を走り続ける貴方へ
すべてを包み込み、次なるステージへ
経営者として、あるいはリーダーとして、日々荒波を乗り越え、道を切り拓いておられる貴女へ。 常に正解を求められ、多くの期待を背負い続ける日々の中で、知らぬ間に心に微かな「淀み」や「乾き」を感じることはないでしょうか。大綿津見神(オオワタツミノカミ)が統べる海は、そんな貴女のすべてを無条件に受け入れ、溶かしてくれる究極の「聖域」です。
1⃣「手放す」ことで得られる、真のリーダーシップ
大綿津見神(オオワタツミノカミ)の包容力は、単なる優しさではありません。あらゆる川の流れを飲み込み、塩の力で不純物を浄化し、ふたたび透明な輝きへと戻す、圧倒的な「受容の力」です。 ときには、握りしめた責任や思考をこの海に委ねてみてください。すべてを手放し、一度「無」に還ることで、リーダーに不可欠な「凪(なぎ)のような心の静寂」が取り戻されます。
2⃣ 深海のような安定感が、揺るぎない確信を生む
表面の波がいかに荒れ狂おうとも、大綿津見神(オオワタツミノカミ)が座す深海は、常に静かで変わることのない安寧に満ちています。 この悠久たる安定感に意識を合わせることは、目先の損得や喧騒に惑わされない、「本質を見抜く視座」を養うことへと繋がります。貴女が深く静かな海そのものとなったとき、その決断には揺るぎない確信が宿ります。
3⃣ 究極の浄化から、新しい「実り」へ
海へ還った水は、浄化を経て再び天へと昇り、豊玉毘売命(トヨタマヒメ)が司る「新しい命の結実」へと向かいます。 貴女が今、この母なる海で心身を清めることは、単なる休息ではありません。それは、次に産み落とすべき新たなビジョンや事業、そして新しい自分自身へと向かうための「神聖な儀式」なのです。

episode:続・後日談
海宮での出会いが変えた運命
山幸彦(ヤマサチヒコ)と大綿津見神(オオワタツミノカミ)の邂逅(かいこう)
兄・海幸彦(ウミサチヒコ)の釣り針を失くし、途方に暮れていた山幸彦(ヤマサチヒコ)【火遠理命(ホオリノミコト)】。塩椎神(シオツチノカミ)の導きで竹籠の船に乗り、たどり着いたのが大綿津見神(オオワタツミノカミ)が統べる「海宮(龍宮城)」でした。※邂逅(かいこう)とは「思いがけず出会うこと」「巡り合うこと」の意。
1. 完璧なる「おもてなし」と知恵
海宮の門の前にある井戸の傍らの木に登っていた山幸彦(ヤマサチヒコ)は、水を汲みに来た豊玉姫(トヨタマヒメ)の侍女に見つかり、そこから豊玉毘売命(トヨタマヒメ)、そして父である大綿津見神(オオワタツミノカミ)へと引き合わされます。 大綿津見神(オオワタツミノカミ)は、一目見て彼が天孫(天津神の御子)であることを悟ると、すぐに最高級のアザラシの皮や絹の敷物を何重にも敷いて彼を迎え入れ、盛大な宴を催しました。
💡 ここがポイント: 大綿津見神(オオワタツミノカミ)は単なる海の主ではなく、天上の神々とも対等に渡り合う高い格式と、客人を最高の礼を尽くして迎える「度量の広さ」を持つ神として描かれています。
2. 全海の生き物を統べる「圧倒的な権能」
山幸彦(ヤマサチヒコ)が海宮で豊玉毘売命(トヨタマヒメ)と幸せな3年を過ごした後、ふと地上へ帰らねばならない理由(釣り針のこと)を思い出して嘆きました。それを聞いた大綿津見神(オオワタツミノカミ)は、すぐさま海の大小すべての魚たちを呼び集めます。 「喉に針が刺さって苦しんでいる者はいないか?」と問い詰めると、喉を腫らした赤鯛(アカダイ)が見つかり、見事に失くした針を取り戻しました。
💡 ここがポイント: 海に住むすべての生命がこの神の言葉一つで動くという、海の絶対的支配者としての力が示されています。
3. 潮を操る「運命の支配」
地上へ帰る山幸彦(ヤマサチヒコ)に、大綿津見神(オオワタツミノカミ)は二つの宝珠を授けました。
🔴潮満珠(しおみつたま): 潮を溢れさせ、敵を溺れさせる。
🔴潮干珠(しおひるたま): 潮を引かせ、敵を救う。
さらに、兄・海幸彦(ウミサチヒコ)を屈服させるための具体的な呪文や作法まで伝授しました。これにより山幸彦(ヤマサチヒコ)は地上での争いに勝利し、平穏を勝ち取ります。
この物語が現代の私たちに伝えること
大綿津見神(オオワタツミノカミ)は、ただ針を探してあげただけではありません。 「失くしたものを探し出し(再生)」「ふさわしい伴侶を合わせ(縁結び)」「困難に勝つための道具と知恵を授ける(開運)」という、人生における「導き手」としての役割を果たしています。
私たちが人生の「釣り針(大切なものや目的)」を失い、途方に暮れて海(潜在意識や深い思索)に潜ったとき、大綿津見神(オオワタツミノカミ)はその深い包容力で私たちを迎え、再起するための力を貸してくれるのです。

もっと読みたい人のために
海幸彦(ウミサチヒコ)と山幸彦(ヤマサチヒコ)の物語
天孫降臨で天降った天照大御神の孫である瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)と、花にたとえられるほどに美しい木之花佐久夜毘売(コノハナサクヤヒメ)。
その二柱の息子たちが、海幸彦(ウミサチヒコ)と山幸彦(ヤマサチヒコ)です。
海で漁をする兄の海幸彦(ウミサチヒコ)と、山で狩りをして暮らす弟の山幸彦(ヤマサチヒコ)。
ある日、二人はそれぞれの道具を取り替えてみることにしました。
山幸彦(ヤマサチヒコ)は兄の道具を使って海で釣りをしてみたものの、魚は一匹も釣れません。そして悪いことに、誤って兄の釣り針をなくしてしまいました。
山幸彦(ヤマサチヒコ)はそのことを正直に打ち明けますが、兄は元の釣り針を返せの一点張り。
綿津見大神の宮殿へ
途方に暮れた山幸彦(ヤマサチヒコ)が泣きながら海辺に座っていると、海の道を指し示す神とされる塩椎神(シオツチノカミ)が現れ、小さな竹舟を編んでこう教えます。
「わたしがこの船を押すから、このまま進んでいきなさい。流れに乗っていくと、綿津見大神(オオワタツミノカミ)の宮殿がある。綿津見大神(オオワタツミノカミ)の娘がうまく取り計らってくれるであろう」
すべては塩椎神の言った通りとなります。
綿津見大神は「これは天津日高(天津神)の御子の虚空津日高(ソラツヒコ)ではないか」、と山幸彦(ヤマサチヒコ)を宮殿へと招き入れ、篤くもてなしました。
山幸彦は綿津見大神(オオワタツミノカミ)の娘、豊玉比賣命(トヨタマヒメ)と結婚し、そのまま3年あまりを宮殿で過ごしますが、ふと兄の海幸彦の釣り針を見つけるという目的を思い出します。
その話を聞いた綿津見大神(オオワタツミノカミ)は、大きな魚小さな魚、海にいる魚という魚すべてを呼び集めて、魚たちに山幸彦(ヤマサチヒコ)がなくした釣り針のことを尋ねました。
すると魚たちの中に、喉に針を引っ掛けた鯛が見つかったのです。
綿津見大神が山幸彦に力を与える
綿津見大神(オオワタツミノカミ)は、その釣り針を洗い清め、山幸彦(ヤマサチヒコ)に渡します。
そして「この釣り針を兄に返すときには、『この鉤はおぼ鉤(ち)、すす鉤、貧鉤(まずち)、うる鉤』と唱えて、後ろ手に渡しなさい」と教えました。
これは、心ふさがる針、心が猛り狂う針、貧しい針、愚かな針という、持ち主が不幸になる呪いの言葉。
また、向かい合ってではなく後ろ手で渡すというのも呪いをかける行いです。
「兄が高いところに乾いた田を作るなら、そなたは低いところに湿った田を作りなさい。兄が低いところに作るなら、そなたは高いところに。私は水を治めているので、3年の間に必ず兄は貧しくなるだろう。もしそれを恨んで兄が愚かにも攻めてきたなら、塩盈珠(しおみつたま)を出して溺れさせなさい。もし苦しんで助けを請うてきたら塩乾玉(しおふるたま)を出して、助けて生かしなさい。そして悩ませ苦しめるのだ」
そう言って、山幸彦(ヤマサチヒコ)に塩盈珠と塩乾珠を授けたのでした。
元の世界に戻った山幸彦(ヤマサチヒコ)。
綿津見大神(オオワタツミノカミ)の言葉通りにすると、兄の海幸彦は次第に貧しくなり、そして山幸彦(ヤマサチヒコ)の元に攻め込んできました。
山幸彦(ヤマサチヒコ)は綿津見大神(オオワタツミノカミ)に教えられたように塩盈珠、塩乾珠を使います。
溺れた海幸彦(ウミサチヒコ)は弟に助けを求め、助けられると額を地面につけ、「これからは、あなたのことを昼夜問わず守護するものとして仕えます」と降参したのです。