「薬」という漢字の成り立ちをご存知でしょうか。
一説には、草冠の下に「楽」という文字を配したこの形は、古代中国において、音楽、すなわち「楽」が、人々の心身を癒す薬の祖先であったことを示していると言われます。
それは単なる偶然でも、比喩でもありません。
いにしえの宮廷では、音楽は娯楽のためではなく、優れた「治療師」として、人々の不調を整えるための「音の処方箋」として存在していました。その根底には、宇宙の万物を貫く『五行』の哲学が、深く息づいていたのです。
五音別の納音一覧
五 音 | 納 音 名 |
---|---|
角(かく) 木性 | 戊辰・己巳(大林木)/壬午・癸未(楊柳木) 庚寅・辛卯(松柏木)/戊戌・己亥(平地木) 壬子・癸丑(桑柘木)/庚申・辛酉(石榴木) |
徴(ち) 火性 | 丙寅・丁卯(炉中火)/甲戌・乙亥(山頭火) 戊子・己丑(霹靂火)/丙申・丁酉(山下火) 甲辰・乙巳(覆燈火)/戊午・己未(天上火) |
宮(きゅう)土性 | 庚午・辛未(路傍土)/戊寅・己卯(城頭土) 丙戌・丁亥(屋上土)/庚子・辛丑(壁上土) 戊申・己酉(大駅土)/丙辰・丁巳(沙中土) |
商(しょう)金性 | 甲子・乙丑(海中金)/壬申・癸酉(釼鋒金) 庚辰・辛巳(白鑞金)/甲午・乙未(沙中金) 壬寅・癸卯(金箔金)/庚戌・辛亥(釵釧金) |
羽(う) 水性 | 丙子・丁丑(潤下水)/甲申・乙酉(泉中水) 壬辰・癸巳(長流水)/丙午・丁未(天河水) 甲寅・乙卯(大渓水)/壬戌・癸亥(大海水) |
第一章:宇宙の法則『五行』と、人体の共鳴
東洋思想の根幹をなす「五行説」は、この世界のすべては【木・火・土・金・水】という五つの要素の巡りによって成り立っていると説きます。
そして、私たち人体もまた、この法則と無関係ではありません。人体は、それ自体がひとつの「小宇宙」であり、五行のエネルギーが調和している時、健やかな状態が保たれると考えられてきました。
木は「肝」に宿り、決断力と成長のエネルギーを司る。
火は「心」に宿り、情熱と精神活動のエネルギーを司る。
土は「脾」に宿り、安定と栄養吸収のエネルギーを司る。
金は「肺」に宿り、呼吸と外界との境界を守るエネルギーを司る。
水は「腎」に宿り、生命力の源泉となるエネルギーを司る。
身体の不調とは、この五行のバランスが崩れた状態。
いにしえの人々は、このバランスを取り戻すために、「音」の力を借りました。
第二章:五臓を癒す『五音』の処方箋
古代中国の音楽理論では、音階もまた五行に対応すると考えられていました。これを「五音」と呼びます。
心臓【君主の官】徴(ち)の音 = 火の音(ソに近い)
「君主の官」たる心を癒す、夏の日差しのように明るい音色。軽快で喜びに満ちたその響きは、精神を安定させ、生命の輝きを増幅させます。心臓は五臓における君主に相当し、人の精神活動や血液の循環などを司り、臓器の中で最も重要な地位にある。心臓が止まることなく脈打つ特性は五音の中の「緻」の調の音楽に属し、西洋音楽の「ソ」に相当。「緻」の調の音楽は軽快で明るく、ウキウキさせる音楽。リラックスしたメロディーは心臓に優しく、午後9時から11時までの時間に楽しむのが一番いいとされています。
肺臓【相傅(そうふ)の官】商(しょう)の音 = 金の音(レに近い)
肺臓は「相補の官」たる脾を癒す、大地のように穏やかで重厚な音色。荘厳で安定したその響きは、心身の土台を固め、消化と吸収の力を支えます。呼吸器系の機能を司り、血液の酸素は肺臓を通じて、人体の各組織へ運ばれます。肺臓は五音の中の「商」の調の音楽に属し、西洋音楽の「レ」に相当。商の調の音楽は軽快でリズミカルな曲で、冬が過ぎ去った後に春が訪れて万物が蘇り、草木が生い茂り活気にあふれる様子をイメージ。
肝臓【将軍の官】角(かく)の音 = 木の音(西洋音階のミに近い)
肝臓は「将軍の官」たる肝を癒す、万物が芽吹く春のような音色。優雅で伸びやかなその響きは、滞ったエネルギーを解き放ち、新たな始まりへの活力を与えます。外敵から体を守るすべての思慮、はかりごとを司ります。しかし長期にわたり気が重い状態が続くと、気や血の流れは停滞し、気滞や鬱血を発生させ、肝臓のエネルギーを損なうことに。肝臓は五音の中の『角』の調の音楽に属し、西洋音楽の「ミ」に相当。ミの調の曲は万物が蘇り、春の息吹に溢れ、五行の木の特性に属し、肝臓の養生に適します。優雅で滑らかなメロディーはまるで春雨が樹木を潤しているようなイメージ。
脾臓【倉稟(そうりん)の官】宮(きゅう)の音 = 土の音(ドに近い)
脾臓は「倉稟の官」たる脾を癒す、大地のように穏やかで重厚な音色。荘厳で安定したその響きは、心身の土台を固め、消化と吸収の力を支えます。人体の機能を維持するエネルギーはほとんど脾臓と胃腸の消化と吸収を通じて人体の各組織へ運ばれます。飲み過ぎ、食べ過ぎ、考え過ぎなどは脾臓に負担をかけます。脾臓は五音の中の宮の調の音楽に属し、西洋音楽の「ド」に相当します。ドの調の曲は抒情的で落ち着いたもので、五行の中の土のように重厚感があり、脾臓に優しいとされ、脾臓と胃腸の働きを活発にし、食べ物の消化と吸収を促進。食事が終わった1時間後に曲を楽しむのが一番良いとされている。
腎臓【左強(さきょう)の官】羽(う)の音 = 水の音(ラに近い)
腎臓は「左強の官」たる腎を癒す、冬の静寂のように清らかな音色。透明で染み渡るようなその響きは、生命力の源泉を潤し、内なる力を蓄えます。人体の生命活動を維持する基本的な栄養物質である【精】を貯蔵し、五臓六腑の要求に応じて随時供給するものと考えられている。腎臓は五音の中の「羽」の調の音楽に属し、西洋音楽の「ラ」に相当。その清らかで美しくも儚い音色は腎臓を潤す効果があるとされている。
このように、例えば肝に不調を感じる時は「角」の音を処方する、というように、音楽は極めて精緻な治療法として確立されていたのです。
まとめ:『納音』~あなただけの魂の和音~
いにしえの人々が、宇宙と人体、そして音楽が、同じ法則で響き合っていることを知っていたように。
この「五音」の思想を、さらに一人ひとりの宿命のレベルまで深化させた叡智こそが、『納音(なっちん)』です。
「納音」とは、文字通り「音を納める(おさめる)」こと。
あなたが生まれ持った「五行」のエネルギーの組み合わせが、どのような「和音(コード)」を奏でているのかを示した、魂の設計図に他なりません。
30種類ある納音は、いわば30曲の生命のテーマソング。
ある人は力強い行進曲のように、ある人は静かな子守唄のように、その人だけの特別な音色を宿して生まれてきます。
私たちFOURPILARSのコンサルテーション、そしてCOCOGEMのジュエリーは、このあなただけの「魂の和音」を自覚し、最も美しく響かせるための、現代における「音の処方箋」です。
ご自身の魂が、本当はどんな音楽を奏でたがっているのか。
その答えを探す旅へ、あなたをご案内いたします。